生活者が主役となるメディア環境で広告にできること

掲載日:2016年3月14日

2015年の広告費総額は6兆1710億円、4年連続のプラスで、インターネット広告の躍進が続く。従来型の広告手法では響かないモバイルファーストな生活者に、メディアはどう取り組んでいくべきか。

広告費総額は4年連続増

毎年2月下旬に電通が出している『日本の広告費』は、広告業界の市場動向にとどまらず、あらゆる産業の指標の一つにもなっている。その昔「広告は社会の鏡」といわれていたが、社会の動きや景気によって左右される。また生活者のライフスタイルによって大きく変化していく。

この生活者の動きは、企業の販促活動に影響を及ぼすことになる。当然ここでもスマートフォンが生活の一部になっていることを抜きには考えにくくなっている。広告市場をウォッチすることは、世の中の仕組みやビジネスのトレンドを探ることに大いに役立つ。もちろん印刷需要を左右することにもなる。

2015年の広告費総額は、前年比0.3%増の6兆1710億円で、2012年以降プラスで推移している。2008年から2011年までは4年連続のマイナスで、電通が日本の広告費推計を開始して以来の初の連続減少となった。2011年は東日本大震災で広告出稿の延期や自粛ムードが続いたが、翌2012年がプラスに転じたのは、広告自粛から復興のために応援の機運へと転化したことが要因として挙げられるだろう。その他ロンドンオリンピックの後押しなどがあった。それ以降4年連続の前年比増をキープしている。

インターネット広告の躍進

マスコミ四媒体は、これまで強かった「テレビメディア広告費(地上波テレビと衛星メディア関連の合計)」が前年比1.2%減になったのをはじめ「新聞広告費」同6.2%減、「雑誌広告費」同2.3%減、「ラジオ広告費」同1.4%減と軒並み減少している。なかでも10年前は1兆円以上あった「新聞広告費」が5679億円になり、同じく5000億円近くあった雑誌広告が2443億円と、印刷メディアの落ち込みが大きい。

これはあきらかに生活者のメディア接触時間の状況と関連している。博報堂DYメディアパートナーズメディア環境研究所「メディア定点調査・2015」の時系列推移(東京地区)を見ると、テレビの接触時間は2006年には171.8分だったのが、2015年には152.9分(11.0%減)まで減少している。ラジオ44.0分→28.9分(34.3%減)、新聞32.3分→19.9分(38.4%減)、雑誌19.6分→13.0分(33.7%減)と、マスコミ四媒体は接触時間も激減していることがわかる。その分、携帯電話・スマートフォンへの接触時間が上昇の一途をたどっている。

「インターネット広告費」は、電通が推計を開始した1996年から常に右肩上がりのプラス成長を続けている。昨年1兆円を超え、2015年も前年比10.2%増の1兆1594億円と二桁成長している。2016年度も最新のアドテクノロジーを駆使した広告が全体を牽引していくであろうと『日本の広告費』では予測している。

ソーシャルメディア時代のコミュニケーション

広告費はスマートフォン広告市場が継続的に拡大しているが、動画広告、ネイティブアドなど、これからますます広告の手法に変化が起きると思われる。これまでの媒体ごとの出稿、つまり「枠」という発想ではなく、「人」に着目したマーケティングの取り組みに変わってくるかもしれない。

印刷会社も顧客のコミュニケーション支援をして、プロモーションのお手伝いをするならば、ユーザーの行動変化を見ていくべきであろう。情報の届け方が直線的ではなく、複雑多様化しており、広告主はどのプラットフォームを選ぶのが一番効果的かを考えてくる。一律に同じ手法をとるのではなく、商品や訴求ポイントによって変わってくるだろう。個人が情報を発信できるようになって、従来の広告手法では、伝えたい情報が必ずしも伝えたい相手に正確に届くとは限らないことが明らかになってきた。

ソーシャルメディア時代の主役は、情報の送り手である企業サイドではなく、あくまでも生活者(ユーザー)である。そのためにソーシャルメディアの動向や刻々変化するメディア環境やトレンドに敏感になるべきである。これからのマーケティング・コミュニケーションは、マスメディアかソーシャルメディアか? といった対立項で考えるのではなく、お互いに連携することも必要になってくる。

(JAGAT 研究調査部 上野寿)

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広告市場動向と新たな広告プランニング手法
2016年3月23日(水)14:00-16:30

電通の『日本の広告費』をベースに広告費の媒体別の動向、業界別の動向、そして『情報メディア白書』より2016年以降のメディア環境を探ります。 またアジャイルメディア・ネットワークの藤崎実氏が「アンバサダーに着目した新しい広告の可能性」として、企業と顧客が一緒にマーケティング活動を行う具体的な事例紹介をします。