人材育成に求められる資格試験の在りかたとは
業務のオートメーションが進めば進むほど、今後の人材には高い角度の視点が求められる。
エキスパート認証制度の試験設計
エキスパート認証試験は、学科と実技という2種の試験構成となっている。
学科は、実践のベースとなる知識や印刷人として知っておきたい知識の確認を主眼とし、客観テストによる知識と理解の確認を行っている。
また実技試験では、制作のプロセスを体感し、実践に求められるディレクション力を培うこと(DTPエキスパート)、実践に際して必要となる思考のプロセスを体得してもらうこと/それを形に表し提案活動を具現化してもらうこと(クロスメディアエキスパート)を目的としている。課題の状況を読み取ることや、思考・判断が求められるスキル、いわゆるパフォーマンスに関する評価を実技試験で測っているといえる。
パフォーマンスに関する評価は客観テストに比べ基準の設定を慎重に行わなければならないが、これらについては、採点項目と各項目における尺度を設定し、臨んでいる。
このように、知識とパフォーマンスを測る機会を設けることで、成果につながる人材育成への導線をしく試験とみていただければよいと思う。
人材育成と資格試験
過日、文部科学省・全国検定進行機構主催による勉強会「検定試験の質的向上に向けて」に参加した。勉強会の趣旨は、多種多様な学習機会に対して、社会から信頼され、安心して受験できる検定試験のあり方についての考察・検討である。
試験の質的向上の一施策として、「検定試験の自己評価シート」というものがあり、運営主体の運営の透明性、試験案内や手続きの公正性、試験内容の妥当性、試験結果の活用促進や継続的な学習支援などの項目について、主催団体自らが自己評価と確認を行うようになっている。
この中の「試験内容の妥当性」について、審査・採点の基準が適切であるかどうかを測る手法として、教育測定学という分野があるという。
勉強会では、東北大学大学院教育学研究科の 柴山 直 教授により、教育測定学を用いた検定試験の設計と品質保証(妥当性と信頼性)に関する講義があった。教育測定学とは、「広義の教育をフィールドとし、学力、知的能力、適性、パーソナリティなどの心理学的特性を統計学的モデルを通して数値化し、それらを教育のエビデンスとすることを目指す研究分野」なのだそうだ。最適な検定試験設計は、これらの過程を経て開発・分析を行うことで、実現するのだという。
一定の知識で業務が遂行でき自然と成果が上かっていた時代が終わり、多種多様な事象に対峙していかなければならない社会の到来の中で、知識の活用、思考、判断など多様な能力を測る民間検定の役割は増している。各検定試験主催者とも、求められる役割に対する適切なアプローチを模索すべく、確立された理論に基づいたテキスト設計が望まれているという内容だった。
JAGATの主催するエキスパート認証試験は、教育成果を測ることだけが目的なのではなく、資格取得という目標を設定して学習機会を提供することにより、社内外との信頼関係を向上し、結果として成果に結び付けることも大きな目標としている。
それは企業としての人材教育を重視している団体であれば、資格の種別を問わず共通の目標のようだ。
企業での資格試験への取り組み
3月20日(日)のエキスパート認証試験東京会場では、試験会場の青山学院大学にて、エキスパート認証試験の他、メンタルヘルスマネジメント検定、国家資格の管理栄養士試験という2つの検定試験が実施されていた。
メンタルヘルスマネジメント検定は、受験者が右肩上がりに増加している試験である。一定規模以上の企業での職場のストレスチェックが義務付けられ、取り組む企業が急増している。
企業によっては、職種を限定せずどの従業員にも関わる問題であることから、社員全員に当資格の取得を義務づけている企業もあるとのこと。検定に合格することでメンタルヘルスが保てるというだけではなく、そういった気風を社内で保ち続けることで、人材の大切さを経営側が示すとともに、各自が自律して業務にあたれるような職場環境を整えているのだといえるだろう。
教育制度の一環として取り入れることで、社内の人材の活性化が図れる、そういうテーマを当協会試験制度にも盛り込んでいければと思う。
—JAGAT Info4月号より抜粋—
(JAGAT CS部 丹羽 朋子)