「若者のパソコン離れ」と印刷会社で求められるビジネススキル
一部のメディアで「若者のパソコン離れ」が進んでいるという記事が散見される。
「若者のパソコン離れ」は本当か?
2016年3月13日の日経新聞電子版では、「若者のパソコン離れ、「新たなデジタルデバイドに」」と題し、東京大学の橋元良明教授の「スマホなどのモバイル端末を通じたインターネット利用時間が大きく増えている」という主旨の記事が掲載された。
また、内閣府は2016年2月に平成26年度青少年のインターネット利用環境実態調査を発表した。この調査では、10~17歳の青少年のスマホやタブレットなどのモバイル端末を通じたインターネット利用時間が近年大幅に増えており、パソコンを通じたインターネット利用時間が減少しているとされている。
つまり、これらの記事は「パソコンそのものへの習熟度」に対する危機感ではなく、「インターネット利用時間」の変化に関するものである。
現在、インターネット利用する上で、モバイル端末の利便性が高いことは明らかである。ニュースの閲覧、メールやSNS、ネットショッピング程度のことはスマホで十分にこと足りる。また、移動中にスマホを利用して動画サイトを視聴することや電子雑誌や電子書籍を閲覧することは、日常的なこととなっている。
若者に限らず、多くの世代でモバイル端末を通じたインターネット利用が普通になったということである。
いくつかの記事では「若者のパソコン離れ」が進むと、社会人に必要なビジネススキルとして、パソコン操作や扱いのレベルが低下することが危惧されている。若者のパソコンスキル低下に対する対策が必要という識者もいるようである。
印刷会社で求められるビジネススキル
インターネット利用だけを考えるとパソコンを扱う時間は減少している。
しかし、専門的なアプリケーションを扱うようなスキルや知識は、日常生活の延長ではなく、必要に応じて学習、または教育を受けるべきものである。
一般企業の事務部門であれば、ワープロや表計算、プレゼンテーションなど代表的なオフィスアプリケーションを扱うスキルは、昨今では当然のように必要とされる。現在の大学生であれば、これらのアプリケーションの操作に習熟している人も少なくない。場合によっては、入社前に修得することを求められることもあるだろう。
しかし、印刷会社では大きく事情が異なる。
印刷物の制作には、現在ではパソコンやDTPアプリケーションが不可欠である。
制作部門の担当者であれば、DTPアプリケーションの操作に精通することが求められる。書体や文字コード、日本語組版、画像データやカラーマネジメント、印刷方式、品質管理など、最終的にはすべての分野に精通することが必要とされる。
また、パソコン自体のメンテナンス、OSやアプリケーションのインストール、周辺機器の接続などに詳しいことも求められる。古い機種の扱いから最新機器の管理など、さまざまな業務の対応が期待されることも多い。
制作担当でなくても、知識は必要である。印刷会社の営業担当や工務担当だとしても、専門家の1人として、画像や文字データについての知識が求められる。場合によって、クライアントに適切な入稿データを準備するにはどのようにすべきか、どのようなパソコンを準備すべきか、トラブルを回避するには何が大切かを解説することも求められるだろう。
DTPや印刷業務、パソコン周辺の知識を修得するには、OJTだけでは不十分である。自身が担当する業務だけではなく、前工程や後工程の内容、適切なデータを授受する際の注意事項など、幅広く、かつ正確な業務知識が求められる。
そのためには、社内教育や自主的な学習、あるいは社外教育などを通じて専門知識や能力を磨くことが必要である。例えばDTPエキスパート認証のカリキュラムに沿って学習するならば、偏りのないバランスのとれた分野をカバーし、業界における標準的で正確な業務知識を修得することができるだろう。
印刷業務のプロフェショナルに相応しい専門知識を修得するには、地道な学習を積み重ねる以外の方法はないのだ。
(CS部 千葉 弘幸)