デジタルと顧客視点を味方に何ができるか

掲載日:2018年1月24日

新しいサービスは常に顧客の要望に合致することを目指してきた。紙の情報をデジタルに置き換えるだけでは意味がない。あらゆる意味での顧客視点を再優先にもう一度考えてみる必要があるだろう。(本記事は2017年4月公開記事の再掲です)

時代の変化に対応する必然性

印刷業界もしくは紙メディアに関係している人たちにとって、デジタルメディアは異業種からの侵略と捉えがちかもしれない。たしかにデジタル化によって情報の串刺しとバリューチェーンの中抜きという大きな変革が起った。

この問題は「インターネットによるトランザクションコスト(取引コスト)はゼロか?」にいきあたる。ネットでは、提供する側と購入する人が、直接つながることができる。しかも時間がほとんどかからない。店に行って、欲しいものを探したり、選んだりする購入にかかる時間も実は大きなコストだ。もちろん中間を中抜きにするのでマージンもかからない。オンデマンドなら発注がきてから作るから在庫コストもゼロになるし、消費者自ら作るようなものが出てくれば物流コストもかからない。

いいことだらけのようにも思えるが、これまで繰り返されてきた顧客視点の発想によるものだろう。戦後ずっと右肩上がりだった経済は、バブル崩壊後マイナス成長の時期に突入している。バブル期に何でもいくらでも買っていたものが、一気に財布の紐が厳しくなった。本当に欲しいものしか買わなくなった人が増えた。ネットが発達した2000年以降は、消費者は価格を比較検討することを覚え、この数年ではライフスタイルに合った購買行動をとっている。

生活者の変化に対応するオムニチャネルの発想

百貨店はその名のとおり、数多い商品を取り扱うことに由来する。何でも揃うといわれた。しかし、最近ではデパートと大型スーパーの境界が曖昧になっている。生活者視点からすると利便性からは、遠くのデパートより近所のスーパーだし、もっといえばコンビニのほうが楽かもしれない。しかし、ここでコンビニを終点と捉えるとネットのECサイトに対応できなくなる。つまり、時代の変化や社会環境の変化を見ておく必要があるということだ。

実店舗で商品を見て、サイトで価格を比較してネットで買う「ショールーミング」も当たり前になった。また逆にWebで見つけて実店舗で購入する「Webルーミング」をする人も増えているという。それぞれの利点を生かして利用すればいい。「リアルとネットの融合」という言い方ももはや使い古しの感があるが、これはオムニチャネルの基本的な考え方である。ここにリアルな「御用聞き営業」が入ると尚よいだろう。

ネットで買った商品が、自分にとって都合のよい時間に届けられるのは、なかなか難しい。特に日中仕事をしている人には、時間がうまく指定できない。そのためだけに待つのもコストと考えれば、取り置きできるコンビニでの受け取りも効果的である。自宅に来られるのを嫌がる人もいるだろうし、コンビニで受け取れば「ついで買い」が生まれ、双方にメリットがある。

印刷業界も顧客視点を持つべき

顧客視点の重要さは、何も流通や小売に限った話ではなく、あらゆる産業に当てはまる。印刷にしても自社のコスト削減や生産性のための設備導入などは、顧客からすれば関係がない。顧客の利益、または利便性に貢献できることこそが価値になる。だからたとえばデジタル印刷機を導入しても顧客に対して、何ができるかを考えなくては、あまり意味がないということになる。

いままで顧客(発注者)は、プロにしかできない紙の印刷技術による印刷物にお金を払っていた。印刷会社は印刷が本業で、それ以外のサービスに価値を見つけてこなかった。印刷物受注のためにこれまでサービスとして無償で提供していたものもあるかもしれない。もしかしたらそこに価値が出てくる。そこで対価をいただくという発想の転換が必要になってくる。

もともと印刷業界はデジタル化が進んでいたが、紙の情報を単にデジタルに置き換えただけではかえって使いづらいものがある。紙では利便性に優れていたものをPDFにしたら全く使いづらくなったものはいくらでもある。利用スタイルを考えなくてはいけないことになる。問題は、それを誰が考えるかである。

(JAGAT 研究調査部 上野寿)

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