DTPエキスパートで仲間増やし

掲載日:2007年9月30日
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福島カラー印刷株式会社 常務取締役 渡辺泰子

 

何かが違う?

「もうちょっと、どうにかならないの?」
私が福島カラー印刷(以下、当社)に常務取締役で入ったのは、そんなふうに思っていた2005年夏。グループ会社からの転籍で、それまでは印刷媒体を中心とした広告業務に携わっていて、当社とのやり取りも多く、互いに協力しながら、私は企画やデザインを当社から請け負い、私からは制作や印刷を当社へ発注していました。
当社は1982年に創業されましたが、印刷機をもたない、いわゆる営業会社としてのスタートでした。12年後の1994年に制作部を立ち上げ、Macintoshでの制作業務を請け負うようになりました。当時グループ会報紙の作成担当をしていた私は、制作部への取材で「福島県内でいち早くMacを導入し、最先端の技術を使いこなしている集団」という内容を聞き、何の疑いもなく記事にしていました。
制作部とやり取りをする機会が徐々に出てきた当初、確かに当社は面白そうな会社ではありました。社員は皆一生懸命仕事をするし、いろいろなことにチャレンジしているようにも見えました。しかし、5年、10年と歳月が過ぎ、私自身の経験も積まれていくうちに、「もうちょっとどうにかならないの?」という思いが芽生えてきたのです。

これでいいの?

それまでの私の仕事は広告の企画、編集、営業だったので、Illustoratorをちょっと動かせるくらいで、データ制作に関する知識も印刷物の工業製品としての知識もほとんどありませんでした。当時は、なぜ当社が私の好みに合わない書体ばかりを使うのかも、なぜ色校と実際の印刷物の色が変わってしまうのかも、なぜ「できない」とか「できなかった」と平気で言ってくるのかも分かりませんでした。だから、「もうちょっとどうにかならないの?」と思い続けていたのでしょう。
そして、転籍。役員として、経営をすることになりました。取りあえず、会社の現状を見ながら、印刷について勉強し始めました。社員を始め、同業者や外注先などいろいろな方とお話しをし、印刷関連の雑誌を読み、セミナーに参加し、知識を増やしていきました。そのうちに、福島県でMac導入ナンバーワンを自称する会社が、当社以外にもたくさんいること、今現在決して当社が最先端の技術を有してはいないこと、お客さまに納得してもらえる制作印刷に関しての説明能力が、当社には足りないことなどが分かってきました。
とはいえ、私は会社では後発。実務で制作部と話をしていると、技術的なことを言っても分からないだろうと思っているようで、時々言いくるめられているような感覚があるのです。当時制作部の部門長は30代で、部員は全員20代か30代。一方、当社の代表を始め営業部のベテラン社員は40代後半から50代。年代の上の方のほうが「ちんぷんかんぷん」という状態だったようで、制作部に「できない」と言われれば、それは「不可能なこと」なのだと解釈していたようでした。
営業部と制作部の関係は、今から思えば、何か力関係のようなものが存在していて、なぜか制作部がとても「偉そう」なのでした。お客様に最適な商品、サービスを提供するのが、私たちの一番の仕事なのに、「できない」理由をいろいろと言い放っては、妙なセクショナリズムを作っていました。時間的なこと、予算的なこと、技術的なこと、いろいろな面で「それってホント?」「不可能なことなの?」おやっと思うことが続くのです。

頭がアマチュアなのよ

人は、ウソをついたり、隠したり、かばったりする生き物で、かつ、基本的にだれもが怠け者なので、時代に追い越されていても気づかないふりをしたり、自分より優秀な人や集団がいてもあまり認めたがらないようです。
確かに当社は、10年前は最先端の技術を使いこなしていたのかもしれません。しかし、その思い込みが日々の業務に追われて、仕事量に合わせて人を増やし、ただただ仕事をこなすうちに、制作技術のアマチュア化を招いてしまったようです。新しいことに取り組む姿勢やそのために必要な継続した勉強の習慣が、欠如しているのです。このままではマズい、未来が見えてこないと、とにかく何か行動を起こさなければなりませんでした。
まず、当時の制作部の部門長にDTPエキスパートの取得を打診しました。すると「そんなの取って役に立つんでしょうかね」との答え。次に、制作部のナンバー2に打診。「時間があったらやってみます」という感じの答えでしたが、彼はきっちりDTPエキスパートを取ってくれたのです。当社DTPエキスパート第1号です。これが、私にはとても救いになりました。もしかしたら、制作部の中で彼が最も私の考えを敏感につかんでくれる人なのかもしれないと思いました。
資格の取得が本来の目的ではないのです。自らが新しいことにチャレンジすること、会社がすべてを準備してくれなければできないと受け身でいるのではなく、自らが機会や時間を作り出して学んでいくこと。これしか機能や能力をアップさせる方法はないと思うのです。多分勉強を始めることは、だれでもできることだと思います。ただし、それを継続してやれるかどうかがその人やその人の所属する企業の行方を決めていくように思うのです。

次につなげようよ

これからは、毎年1人でいいからDTPエキスパートを増やして、文字どおり当社はプロ集団だと言いたい。私が当社に来る前に抱いていたような「何かが違うよ」という感想をお客様にはだれ一人として持ってもらいたくない。言いくるめるのではなく、納得してもらう話のできる集団でありたい。そう思い、自らが行動すべきだろうと、DTPエキスパートの勉強を始めました。
とにかく最短で、つまり1回で取得したかった。決してたっぷりと時間があるわけではないので、1日に勉強に費やせる時間はせいぜい30分。また、連続して時間を取ることは非常に難しいので、とにかく、5分や10分の細切れの時間でもいいから集中して勉強する工夫をしました。
勉強するにつれ感じたのは、印刷業界の共通認識として、これが最低限のことだということです。DTPエキスパート取得者というとまるで「すごい人」のような感覚が当社にはまだありますが、決してそうではないと思います。範囲も広く、常に情報も新しくなっています。昨年の試験問題の約20%は最新の内容に変わります。当社が制作部をもって10年。以来当社が変わらず、20%ずつ印刷業界が変わっていたとすれば、もう5年前に追いつかれ、今では5年も遅れてしまっていることになるのです。
試験を受けて合格することの意義は、系統立った勉強が必要であること。全分野に関して平均的に知識を網羅しなければならないことなのだと思います。
私たちを取り巻く環境は、印刷業に限らずものすごいスピードで変化しています。当社は遅れてしまったのだと思います。早くスタートラインに立つために、知識を欲すること、意欲を表すこと、自らが行動すること、このことを会社の中に広げたいと思っています。
私のDTPエキスパートの合否は、前述の当社DTPエキスパート第1号からのメールでした。5月なのにそのメールは「桜咲く。」でした。
彼は今、部門長として制作部を切り盛りしています。私の理解者をもっと増やしたい。当社の抱える現実に正面から向かっていく人材を増やしたい。DTPエキスパートを取得するという手段を使って、増殖していければと思っています。
 
(JAGAT info 2007年9月号)
※本記事の内容は、2007年9月掲載当時のものです。