DTPエキスパートで自己変革
共同精版印刷株式会社 常務取締役 後藤義裕
印刷業界ではコンピュータの発達でデジタル化の波が押し寄せ,デジタルデバイスは広がるばかりです。実際の業務においてもお客様の知識も上がる一方,プロとしてこの変化に印刷人として対応していけるのかが,当社の課題でもありました。
そこで,業界・関連団体のセミナーに営業部門・プリプレス部門の対象者を受講させレベルアップを図ってきました。受講者は日々の仕事に役立てているものの,実際どれぐらいの知識が身に着いたかということについては把握し切れていません。そんな時,『プリンターズサークル』でDTPエキスパートのことを知りました。社内でも営業部門には紹介はしたものの会社としてどう取り組むか,以前取得した営業士とはどう違うのか。そこで,どんな内容なのか知るためにまず社内から2名挑戦してもらいました。予想どおりと言うか思ったより手強そうで時期が来れば社内に啓蒙していこうと考えていました。そんな時業界関連の商社では,社員の半数,営業のほとんどかDTPエキスパートの資格をもっていると聞きました。その話を聞いた社長は,決断が早く,当社も社員のレベルアップにつながるならば早速やってみようということでスタートしました。
当社では全社員対象に3年前からDTPエキスパートの認証試験を受けるよう勧めています。2年前から制度化し企業受験の体制を整えました。合格率が40%台ということでセミナーは1回,受験は2回まで会社で費用を負担することといたしました。それ以上は実費となります。現に2度目のセミナーを自己負担で受けている者もいます。
2年前は1名受験1名合格。一昨年は12名受験3名合格。昨年は5名受験し4名合格しました。全社員120名ですので8名ですと現状では取得率6.7%です。会社全体として25%まで上げたいと考えています。
当社では奈良本社・大阪支社の社員が受けるセミナーに奈印工組のセミナーを指定しました。東京支社は指定していません。一番仕事の落ちつく時でもある7月と8月の毎日曜日に行われます。それ故,セミナーを受講すると1年だけ夏休みがないような感覚にとらわれます。当社はこの時期は土曜日も休みですので,勉強するには良い環境とも考えました。ところが,この時期は意外と社員には不評で,夏休みがないと言う声もちらほら私の耳に入ります。20年ほど前には印刷営業士・営業管理士でも同様なパターンで資格を取得した経験があります。時代が変わると価値観も変わります。そんなにつらいのかなと,今回の私の受験動機は不純なもので,一度自分でやってみてそれからもう一度体験を基に全社員に勧めていくことを考え実行に移しました。
実際やってみて,驚きました,意外と難しい内容です。守備範囲がけっこう広いです。それ以上に自分自身の年齢による記憶力の衰えを痛感いたしました。既に取得済みの他社の方から「受けるなら50歳までが限界やで」とも言われていた49歳になっていました。1週間前に解いた模擬問題が答え合わせをしたにもかかわらず奇麗さっぱり数日後には忘れているのです。これは,毎日しないといけないと感じました。しかし,仕事などで夜遅く帰ってそこから模擬問題を1回分,解いて答え合わせをすると約2時間半,毎日日付が変わります。これは,翌日の仕事にこたえるなと。やはり週末しかない。その点,夏場は土日とも休みでしたのでこの2カ月,特に土曜日は近所にあります国会図書館に開館から閉館までまじめに勉強に通いました。過去3年の模擬問題を解いて回答しチェックを入れるサイクルにぴったりの時間です。どちらかと言うと,スポーツで汗を流すことが多かった週末の土曜日に勉強する習慣が付いたことは私にとっては収穫でした。
DTPエキスパートの内容の印刷関連部門は,25年の業界でのキャリアのお陰で基礎知識だけは身に着いていました。先輩からOJTで教えていただいたことが役立っています。ただ,結果だけが知識として身に着いており,なぜそうなるのかといったことがこの間の勉強で分かりました。業界に深くいればいるほど常識となっていることが理論立てて説明できなくなっています。私たちの世代は,先輩から知識を盗み取ることで学びましたが,結果しか身に着かなかったのが事実です。そういう意味では今の世代に教えるに当たって,結果よりはプロセスを中心とした内容を教えないと身に着かない,このプロセスを今回のDTPエキスパートの資格を取るに当たり不鮮明だったことがすべて明らかになり,自分の知識を理論立てて説明するのに多いに役立ったと言えます。私は,若い世代より,40歳代以上の世代に,社内の部課長たちに自分の経験と知識の確立を図るために多いに受験を進めたいと考えます。
コンピュータ関連の問題は,正直言って訳の分からないものも多かったです。この点については,繰り返し繰り返し頭と体に覚えさせました。理屈ではなく,結果がこうなのだと。それ故,これからじっくりこの部門については,再度勉強する必要があります。
自分が受験して,会社としてやはりこの資格を希望者には全員取ってもらうための環境を整えるのが私の役割の一つと考えます。また役職者には今後必須資格としていくことを検討しています。なぜなら印刷業界においては,仕事にも教育にも役立つからです。勉強して得た知識,学ぶことが習慣になったことも自分自身にも会社にもマイナスになることなどありません。プラスになることばかりであれば,どんどん皆に体験してもらいたいと考えて受験を奨励します。また,この年になって受験することでよい緊張感を味わえました。家庭においても,帰宅してから勉強している姿を子供が見て「お父さん何してるの」「難しい問題といてんのやな」とか,「私も隣で勉強するわ」など,親が勉強している姿は大学生や高校生の子供たちにも,今まで以上に会話を促進する副作用もありました。特に,試験日の朝,家族には高得点合格を目指すと宣言して出掛けたものの,難問にぶち当たって帰ってからの私の落ち込みようを見て,「あんなにがんばったんやから,いいやん」と逆に子供に慰められていました。コンピュータ関連の新規問題は,協会として受験生にもう少し範囲を知らせる方法を検討していただけたらと思います。全く理解できない問題で,私も含め今回受験した全員が未知との遭遇でした。
それ故,合格発表の日は朝からネットで何度も何度もアクセスし,自分の番号を発見した時の喜びは,心の中で叫んでいました,「やった」の一言でした。久しぶりの感激を味わえました,仕事に関連するものの,また違った一つの達成感です。
ところが,お客様の反応は,DTPエキスパートの認知度が低いせいか,それって何の資格ですかとか無関心の方もいらっしゃいます。ただ,パソコンの普及率から考えますとさすがにDTPという言葉も浸透しています。なかには,制度のことをご存じの方もいらっしゃり「けっこう難しい資格もっているな」と。私は今回,自分自身を追い込む意味でも,お客様も含めけっこう多くの方に自分が受験することやこの制度のことを話しました。自分にプレッシャーを掛けるとともにいろいろな方々にDTPエキスパートのことを知ってもらおうと,語り掛けました。DTPエキスパートに関心のある方は少なかったものの,デジタル知識を求められている方は多いなと感じました。われわれ印刷業に携わるものがリードしていかなくてはならないのではと感じました。
今,印刷業はデジタル化の流れの中で業態変革を迫られています。変革するための7Keysの中に営業戦略・生産戦略・IT基盤整備にデジタル化が当然含まれており,DTPエキスパートの資格をもつ人材が多いほど社内改革を進められ強い体質の会社を作れると確信しています。強い会社を作る人材に自己改革するために,自らを変革するためにもチャレンジされるのもよいのではないでしょうか。
(JAGAT info 2006年2月号)
※本記事の内容は、2006年2月掲載当時のものです。