DTPエキスパートに思うこと
株式会社トライペックス 取締役生産担当 大槻 辰弥
トライペックスは1996年に創立し、お陰さまで今年の5月で10周年を迎えることができました。
創立当初は、アナログ製版専業でスタートしたためCEPSを中心にしたワークフローで作業しておりました。その後、現在に至るまでにDTPの立ち上げ、制作部門の立ち上げ、ISO9001:2000の認証取得、高品位画像クリエイティブ事業の立ち上げ、ダミー制作工房の立ち上げなどに取り組んでまいりました。これらは従来のアナログ工程をデジタル工程に移行させ、さらに進化させ新たな付加価値を追求する取り組みでした。
DTPエキスパート認証試験も今回で第26回となり、DTPエキスパート認証制度も幅広く認知されるようになりました。
実際の仕事も、いつの間にか完全にDTPに移行し、最近では紙版下を見たこともない作業者も増えてまいりました。さらにパソコンのハードウエアの進歩、ソフトウエアの進歩により、DTPの技術もさらに進化し続け、新たな変革期が迫っております。
DTP導入時期とDTPエキスパート
弊社の創立当初は前述のようにCEPSで作業を行っており、手集版率をいかに下げるかを考えておりました。この当時は、Macの能力も低くMacを使用することによって逆に生産性が低下しコスト高になると認識しておりました。しかし、人間の心理とは面白いもので、まだ仕事では使えないと思いつつも、創業時点で最初に起こしたアクションは、秋葉原にMacを購入しに行きDTPの実験を始めたことでした。
実務でDTPを始めたのは、PowerMac9600のころからです。当時は、オペレーション的にも未熟な点も多く、毎日試行錯誤の繰り返しで作業を行っておりました。
当初は、ページ単位でDTPデータをネガ出力し手集版で面付けを行ったり、改訂版の改訂部分の文字をネガ出力して旧版にストリップ訂正を行ったりしておりました。まれに完全データと称するデータが入稿され、安易に作業に取り掛かると思わぬトラブルに巻き込まれ出力に何時間も費やすこともありました。
そのため弊社では、何とかDTPの技術レベルを向上させる必要がありました。その一環として、外部から講師を雇ってDTPの指導を受たり、DTPエキスパート認証取得を積極的に推進したりいたしました。
特に、DTPエキスパートについては社長方針により、会社が全面的に支援して取得を推進いたしました。また、社員はそれにこたえるべく努力して取得に当たりました。当時、自分の心情としても「何とか一人でも多くの社員にDTPエキスパートを取得してもらいたい」という思いから取得推進を行っておりました。その結果、現在では多くの社員がDTPエキスパート認証取得済みの状態となることができました。
そのころ自分は現場の進捗の仕事をやったり、次期導入する機材の情報収集や選定の仕事をやったり、ISO9001:2000の取得や維持管理の仕事をやったり、技術的に営業のサポートする仕事をやったりと、いろいろな業務を掛け持ちで行っておりました。そんな中、あるお客様との何気ない会話の中で「大槻さんってDTPエキスパートもってなかったのですか。てっきり、もっていると思っていました」と言われたことがあり、その一言がキッカケとなり自分もDTPエキスパートを取得することにいたしました。そのため、自分が取得したのは、かなり後になってからのことです。
DTPエキスパートのメリット
人からの聞いた話でなく、実際に自分でDTPエキスパート認証試験を体験することにより、その内容や難易度が正確に把握することができました。
初心者教育の一環並びにDTPの概要をマスターさせる最善の教材として、この認証試験を受けさせることは非常に効率的だと思っております。また、実務担当の方へは、前後工程の知識を概要的に把握する上で有用であり、営業の方にとっても広く浅くDTPの知識を身に着ける上で効果的なツールの一つだと思います。
個人に対するメリットだけでなく、企業としてお客様へ技術的な裏付けをアピールしたり、技術力に対する安心感を与えたりすることができたと感じております。
認証取得への環境
DTPエキスパートの取得は、ピーク時よりやや減少傾向ですが、それでもコンスタントに毎年3000名以上の方々が取得され、近年では非印刷関連企業の取得が30%を超えてきているようです。
DTPエキスパート認証制度は、単に認証試験があるだけでなく、問題集や解説書が充実しています。また、予算に応じていろいろな場所で試験対策講座などを受講することもできます。そのため、何をどのように勉強すればよいかが明確なので「よし、DTPエキスパートを取得するぞ」と心に決めた翌日から、筋道を立てチャレンジできます。
また、出題内容も毎回改訂され、DTPの発展に応じて時流に合った内容になっているため、陳腐化せずに生きた資格となっていることもDTPエキスパート認証制度の優れた点と言えるでしょう。
さらに、ひと口にDTPと言っても、印刷物には非常に幅広い用途や目的、要求品質が存在するため、各社が取り扱う製品により作業方法や基準がさまざまで、各社各様のハウスルールに基づいて仕事が行われているのが現実ではないでしょうか。それにもかかわらず、DTPエキスパート認証試験の出題は、極端に偏ることなく一般論としてバランスの取れた解答を正解としている点でも評価できます。
印刷業界の変革と当社の取り組み
時は移り変わり、作業環境が進化しPDF入稿が始まろうとしております。またアドビシステムズからPDF Print Engineが発表になりました。これは、今までのDTPのワークフローを覆す革命的な出来事のように思います。
現状では、まだネイティブデータでの入稿が大半を占めていますが、今後PDF Print Engineが実用化されることによって、確実にPDFデータをRIPすることが可能になると、PDF送稿が大幅に普及するでしょう。これにより、今までの製版の役割に終止符が打たれ、また一方で制作側にも下版に耐え得るデータ精度が要求されるでしょう。この環境変化への対応が企業存続のポイントになると思います。
弊社はこの10年間に、製版専業ではなく総合印刷企業として企画・制作から手がけられる会社に変革してまいりました。今後さらに、弊社のコアである画像処理技術を発展させ、今までの2D画像にとどまることなく3D画像や立体造形へのビジネス展開などの、勝ち進むための新たなビジネスの展開を模索しております。
私たちの仕事は、短納期対応のため出稿時間に追われる毎日を送っております。しかし、短納期・低価格・高品質については、今日に始まったわけではなく以前から言われ続けている課題です。毎年、1年ごとが勝負の年であり、企業が存続する限り延々と続くものだと肝に銘じて努力してまいりました。
DTPエキスパート取得のために学習したから仕事の業績が向上するというわけではありませんが、大切なのは「目標にチャレンジする心」だと思っております。チャレンジと言うと、無謀な大冒険をイメージしがちですが、可能なことを着実に積み重ねステップアップしていくことこそチャレンジだと思います。
(JAGAT info 2006年9月号)
※本記事の内容は、2006年9月掲載当時のものです。