DTPエキスパート奮闘記
日経印刷株式会社 第二営業部 部長 久保田 哲司
DTPエキスパートって何?
日経印刷は創業42年、東京飯田橋に本拠地を置き、デザイン、制作から製本まで一貫生産している総合印刷会社です。ページ物を主体に商業印刷物など幅広く営業部員74名と管理部門30名、制作・製造部門約200名で日夜対応しています。
社員研修に力を入れ、新入社員研修、階層別研修、管理職研修、個別外部セミナーへの参加、外部コンサルタントと一緒に改善活動を実行しているNPS活動など、会社主導の一般教育は充実していますが、印刷業界全般の幅広い知識を網羅したものはなく、営業の印刷知識教育と言えば、社内の制作部や営業企画部主催の勉強会を適宜開催する状況でした。
社内で「DTPエキスパート認証取得」を目指す動きが出たのが2005年初頭でした。私は「DTPエキスパート」の名称は知っておりましたが、何となく「DTPオペレーターが取得するもの」でその具体的中身に関しても一切知りませんでした。それがどうして急に弊社で取得を目指すことになったのかは、よく分からないところもありましたが、業界動向それもDTPオペレーターばかりでなく、営業が取得しているという事実などから、必要であると判断したものと思われます。
チャレンジ決定後の動きは早く、今後数年掛けて対象者全員取得、対象は営業職課長以下全員と制作部の選抜者と決まり、営業企画部が具体的方策を検討し、外部講師選定、講習スケジュール、受験、取得までの流れができました。社内に外部講師を招いて集合教育式で勉強していくことになり、期間はゴールデンウィーク明けの5月より7月までのDTPエキスパート総合講座と8月以降の直前対策講座、本試験、9月上旬の課題制作まで、毎週土曜日8時半から18時まで、マシン台数の制約やその他事情を考慮し、営業は半分ずつ受験しようと35名プラス制作部より8名、合計43名が初年度受講生となりました。
余裕のスタート、それが……
私はオブザーバーという立場で初回講習より参加をしていきました。狙いはどんな教育をするのかという興味と皆の応援の意味合いです。このスタートの段階では一応20年以上この業界にいますのでそれなりの自信をもって望みました。
しかし、模擬試験(本試験の約半分の時間とボリューム)をやってみると全然時間が足りない、全体の半分を超えた分くらいしか進まない。自分では分かっているつもりで自信をもって解答しても設問が意地悪?で間違えている個所も多々あり、初めての模擬試験は惨たんたる結果で、恥ずかしくて部員に見せられるシロモノではありませんでした。かなりショックを受けながらも、実機(Mac OS XでInDesign CS2使用)講習では、2人で1台だったので先輩F氏と勝手にいじくり講師の手をかなり煩わせながら、和気あいあいに楽しんでおりました。
本気、必死の受験勉強
和気あいあいとした実機講習を経て、いよいよ8月より直前対策講座が始まりました。これはひたすら過去問題をやり、答え合わせ、その解説を行うという、週休2日制に慣れた身体には5月からの疲れも重なり、精神的にも肉体的にも結構きつい講座です。この段階で今年は受験しないメンバーも出て、営業21名、制作8名の合計29名が受験までの本番モードに突入しました。私はと言えば、今さらオブザーバーうんぬんとも言えず、ついに受験メンバーとしての登録をいたしました。
ここからはひたすら暗記・過去問題の日々が続きます。しかし、実務を離れて10年以上たつと、なかなか頭に入ってこない。スピードにも付いていけない。イライラが募る中、土曜日は講座、日曜日は朝から会社の会議室にこもり、時間を計りながら過去問題をやる、でもとにかく最後の問題まで時間内にたどり着かない日々が延々と試験当日昼まで続きます。
開き直りの心境と奮起
「あーあ、最後までやっぱり時間内に全部できない」とあきらめなのか開き直りなのか複雑な心境で試験会場である東京渋谷の青山学院大学に到着。会場についてみてまず圧倒されたのは人の多さです。「こんなにいっぱい受けるの?」が率直な印象。皆若いのにがんばるなー(まるで他人事?)一応わが社の社員が皆来ているのを確認した後、校舎の外でタバコをふかしていると私より年配の方(50歳代)が必死にテキストを見ている姿が…。ガーン!
みんな私より若いしと弱気になっていたのに急に気合いが入りました。でもドラマのようにはうまくいかず、気合いと知識は別物で、最後の問題までたどり着けずに相当数を残して終了と相なりましたが、筆記試験の出来とは関係なく、すぐに課題制作に入り何とかかんとか苦しかった「DTPエキスパート受験期間」が9月中旬やっと終了。
結果発表
10月末になってそろそろ忘れたころに結果発表があり、日経印刷からは受験者29人、合格者18人、そのうちわが第2営業部からは8人中5人合格しました。制作部はさすがに8人中7人の合格者を出し、うち1名のO君は今回の受験者1829人の中で1位の成績であったそうです。かくいう私も何という強運なのか、年配の方を見て奮起したお陰か最後まで解けなかったのに合格しました。ヤッター。
体験して
やはりあっと言う間にドンドン忘れていきます。「範囲が広すぎる=日常業務との接点がないことも多い=すぐ忘れる」となりますので、自分で実践に生かすか、より深く掘り下げていく努力を継続するしかありません。
印刷業界はコンピュータ、ネットワーク、アプリケーションなどを活用、組み合わせ、応用することで効率化、差別化、受注促進につながることは、既にさまざまな形で実証されています。お客様の課題解決に向けて、何を切り出して何を組み合わせ改良してどう強調アピールしていくか?を印刷営業職こそ実践していく必要があると考えます。そのための基礎知識を習得する意味で「DTPエキスパート認証資格」を印刷営業職がチャレンジしているという流れは体験してこそ理解できるものでしょう(その大変さも)。
最後に
お客様の印刷会社を見る目の変化と言いますか、以前はお付き合いの度合いに応じて発注量もある程度読めましたが、もうそんな状況は大方消えています。特にここ数年は、「印刷会社はどこも変わらないから、これがいくらでできるのか?」と金額だけが関心事であることも増えています。また、作業工程についてもフィルムやプレートが出るまでは一緒に考えてくれることもありますが、それ以降の工程に関しては「できて当たり前」の感覚をもっている印象を強く感じます。
そんな環境下だからこそ、普段お客様と接している営業によって、その売り上げや利益が大きく変動していくチャンスでもあり恐れでもあります。「DTPエキスパート」の知識で直接お客様の課題解決につながることは少ないと思いますが、「こうすればもっと楽になるのでは? この方法は使えないか?」と気づく下地は十分に身に着くはずです。ぜひこの知識の下地に根を張って自らの実務に直結した分野の幹を太く高く伸ばし、お客様に喜ばれ、自らも充実感、達成感を味わってほしいと思っています。
(JAGAT info 2006年12月号)
※本記事の内容は、2006年12月掲載当時のものです。