DTPエキスパート試験と企業サポート体制
2016年8月に開催したDTPエキスパート認証(本試験)は、第46期、23年目を数えることとなった。累計の資格取得者は22,000人を超えており、印刷業界におけるスタンダードな資格と言えるだろう。
1990~2000年代のDTP環境とエキスパート
今から20数年前は、PC上で印刷物制作をおこなうことはかなり特殊なことであり、そもそもPC自体の導入も少数派であった。そういう中で印刷会社がDTPを導入・推進するには、印刷そのもの知識とDTP・色・コンピュータに詳しいキーパーソンが必要だった。
そのような人材の育成が急務であるため、JAGATは各方面の先進的リーダーに協力を依頼し、DTPのリーダー、キーパーソンとして修得すべき知識のカリキュラムを作成し、DTPエキスパート認証試験を実施することにしたのである。
しかし、試験スタート後の4~5年間、90年代、実際にDTPエキスパートにチャレンジしていたのは、DTP関連の機材やPC、ソフトウェアを扱うメーカーや販売店のスタッフが多かった。
印刷会社に自社製品の機能や操作、PCの扱い方を説明するには、印刷と最新DTPアプリケーションとPCの知識が必須だった。フォントや日本語組版、カラーマネジメント、画像データや圧縮形式などを初めて勉強したというスタッフが大半だったのである。そのための教材として、DTPエキスパートは最適であった。さらに、販売スタッフが資格を取得することで、顧客である印刷会社からも信頼されることになったのである。
2000年頃には、PCやDTP関連製品もある程度普及が進んでいた。
印刷会社の中でも、当初はごく一部の社員だけが詳しいという状況が一般的だった。そのため、細かいことは詳しい社員に丸投げするような風潮もあった。しかし、そんなレベルで毎日の仕事は回らない。次第に、一部のリーダーから一般のオペレーター、工務担当者、管理職と拡がり、制作・製造部門全体でDTPエキスパートを目指すようになった。
現場の中にDTPエキスパートが何人も生まれ、共通の知識レベル、共通の言語を持つようになるとコミュニケーションも円滑になり、仕事の進め方もスムーズになる。たいへんな時にはお互いにカバーするといった好循環も生まれてくる。
印刷会社によっては、むしろ営業部門でのDTPエキスパート取得を奨励しているケースも多い。
営業担当者がDTPエキスパート取得者であれば、まず制作スタッフとの共通言語を獲得することとなる。営業と制作部門間のコミュニケーションも円滑になり、営業部門の中途半端な理解や知識不足によってトラブルを引き起こすことも無くなっていく。
名刺に「DTPエキスパート」と印刷されていれば、顧客からの信頼度も高くなる。専門的なDTP・印刷知識を身に付けた優秀な営業パーソンとして、頼りにされることとなる。
この傾向は現在でも続いている。営業部門配属の社員には入社1~2年の間にDTPエキスパートの資格取得を義務付けている会社もある。
エキスパート試験と企業サポート体制
2000年代以降、人材教育の一環としてDTPエキスパート試験を位置付ける印刷会社も少なくない。
例えば、受験費用の負担や合格時の報奨金制度、資格手当といった方法でサポートしているケースも多い。さらには、外部講師を呼んで定期的な講習会を開催し、資格取得をサポートしている企業もある。
社内サークル・勉強会というスタイルを採用している印刷会社もある。各自で模擬試験や問題集を解き、資格を取得済みの先輩が講師となって解説するといったスタイルが多い。試験前の数週間や数ヵ月、定時後や土曜日などに開催することもあるようだ。
部門を越えて共に勉強するということは、社内コミュニケーションの側面でも好影響がある。
資格取得者が増えるということは、社員のレベルアップそのものである。社員個々の意欲や意識が高くなり、品質や納期・コストなどあらゆる面でより精緻になる。無用なロス・ミスや印刷事故も避けられるようになる。
社員の多くがDTPエキスパートにチャレンジするような向上心と真摯な姿勢があれば、印刷ビジネスのレベルアップ、業績アップにも繋がっていくこととなるだろう。
(CS部 千葉 弘幸)