新規のビジネスモデルを創出するために必要な発想

掲載日:2018年10月4日

自分たちの強みを生かして、自ら考えてビジネスを作り上げていく。そのためには経験知を活かすことで、全く畑違いのビジネスを開発することもできる。

■「KKD」をおろそかにしてはいけない

マネジメントシステム用語で「KKD法」といえば、「勘、経験、度胸」のことである。これは過去に成功体験をもった人の経験知からくる職人技のようなものだと思われがちである。もっと意地悪な見方をすれば、古臭い価値観であり、たんなる自慢話にしか聞こえない。

ともすれば旧時代の遺物のような扱いをうける「KKD」であるが、もちろん否定するには当たらない。われわれは有能な人ほど勘や経験がものを言う仕事の現場を目の当たりにしてきてはいないだろうか。

むしろすべてを理詰めで物事を考えると、あらゆる可能性の芽をつぶして、一方的な見方しかできなくなる。そちらのほうが問題である。もちろんロジカルシンキングも大切だし、データによる解析も重要である。そこにこれまで培った経験知やノウハウをどのように活かすかを考えていくべきであろう。「KKD」をなめてはいけないのである。

■別の価値を届けること

使い古されたたとえだが、エルメスは馬具工房としてスタートしたが、自動車の発展による馬車の衰退を予測して、自社のノウハウを活かす工夫を始めた。それが鞄や財布などの高級な皮革製品になった。つまり事業のドメインを変更して成功したといわれている。

それは、これまでのビジネスを自己否定するところから始まるのかもしれない。印刷会社は、印刷物(紙)を生産する製造業のくくりに入るがモノづくりにこだわると同時に、これまで蓄積してきたノウハウをほかに活かす手法を学ぶことでビジネスを拡大することにつながるのではないか。

印刷物を刷るまでが印刷会社の仕事で、出来上がったものを届ける仕事は別の業態になる。しかし、発注者は作った印刷物(届けたいもの)を届けたい人の手に届けることを希望しているからデリバリーという仕事が必ずある。そこまでワンストップサービスとして手伝うことができれば、もっと先のことまで考えることもできるだろう。 

届けられた印刷物がどのような使われ方をしているかを調べることも求められている。効果測定は重要度を増している。それは、顧客にとっての「売れる仕組み」を手伝うことで自社が儲かる仕組みを作ることにつながる。このことを「マーケティング」と言い換えてもいいだろう。

■全く新しいビジネスにチャレンジする

先日テレビを見ていたら精密機器を製造している株式会社向山製作所(本社・福島県)が生キャラメルの製造販売をして評判になっているとのことである。なぜ精密機器メーカーが、スィーツ事業に参入したのか不思議に思える。

しかし、そこにはピンチをチャンスに転換する逆転の発想があった。リーマンショック以降仕事が激減する中で、自社の強みを生かせるものはないか考えていた時に、スィーツ産業が売上を伸ばしていることに注目したそうだ。これも精密部品を作るときに徹底した温度管理、湿度管理のノウハウを生キャラメルの製造過程に適用したものらしい。

「地元を活性化したい」という思いと相まって、微細な部品を組み立てる高度技術を活かして全く畑違いのビジネスにチャレンジしている。いまではネットショプも立ち上げて、事業の大きな柱になっている。

ほかにも銚子電気鉄道の「ぬれ煎餅」も経営危機を回避する方法として有名で、地元の醤油を使った煎餅は、いまでは千葉県土産の定番になっている。印刷会社が印刷物以外の地元密着型商品を創り出している例も増えている。

これからは過去の遺産にしがみつくのではなくて、過去の資源を活かして最大限にその価値を伸ばすことが必要になる。そのためのドメイン変更もあり得るだろう。

向山製作所のホームページを見ると「地域で生産されたものを地域で消費する「地産地消」と「地域の食文化の向上」というテーマのもとで、なにかビジネスモデルを創作できないかと考え、他事業の取り組みを行っていく」とある。印刷会社にとっても参考になるべき事例ではないだろうか。

(JAGAT 研究調査部 上野寿)

※本記事は2017年3月公開記事の再掲です

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