DTPエキスパート認証試験の理念
2017年5月10日はJAGAT創立50周年の記念日である。毎週水曜日は50周年にちなんでJAGATがやってきたこと、やっていることを再認識してみたい。第一回目はDTPエキスパート認証試験についてである。
私はJAGATの職員になる前からDTPエキスパート認証試験には関係していて、DTPエキスパート認証委員会の副委員長(委員長は多摩美術大学の猪股先生)をやっていた。副委員長といってもただ偉そうにしていただけではなく、啓蒙セミナーをやったり、参考書を書いたり、DTPの真っ当な普及に注力していた。
アスキーからエキスパート試験の問題集(単なる問題集ではない実戦参考書)を発刊した際にも「前書き」がふるっていて、まだ若かりし頃(私だけではなく、日本の印刷業界が)の肩に力の入っている様子がよく分かる。少々恥ずかしいが、これが日本のデジタル化の赤裸々な姿であり、DTPエキスパート認証試験の歴史なので少し紹介したい。書いたのは2002年10月28日である。
—-日本の受験勉強は「社会に出て役に立たない」とよく批判されるが、もし本当にそうなら大変残念なことであり、若い感受性に富んだ貴重な時代を無駄な受験勉強に費やすのは不幸なことといわざるを得ない。エキスパート試験も同様で「知識偏重」と批判を受けることがある。
最近は問題を作成する側でも、この辺を意識して考えさせる問題が多くなっているので批判も減っていると思うが、試験だけのための勉強に終わってしまっては、その勉強時間として(社会人の)貴重な時間を充当するのは、お金を落としたのと同じ事になってしまう。
知識偏重といっても印刷会社やメーカーの営業職にとっては、言葉を知っているだけでもすぐに役立つかもしれない。しかし受験勉強のための勉強、一夜漬けで覚えた知識は一夜で消えると相場が決まっている。しかしDTPエキスパート試験とは、もともと「日本のDTPの未来を作っていける人材を育成していこう」という崇高な理念のもとに企画されたものである。
こんな事を大上段に書くと勉強する意欲もなくなってしまうと思うが、本書は「DTPエキスパートに最短距離で合格する」「更新試験を通過する」という具体的な目標を掲げ、たとえ動機がそうであっても「何か得るもの」が読者に残ることを「真の目的」にしている。私のイメージの根底にあるものは、自分自身が受験生時代にお世話になった地球物理学者の竹内均先生が書かれた旺文社の「物理の傾向と対策」である。単なる問題集ではあるが、若き日の受験生、少なくとも私は「物理するマインド」を教えられたことを強烈に記憶している。改めて竹内均先生に感謝の意を表したい・・・。
竹内均先生は科学誌の「ニュートン」の初代編集長でも知られた方で、竹内先生が企画した路線で現在のニュートンも発行され続けている(基本的に)。また竹内先生は受験勉強にも熱心だったことで有名な方である。受験勉強に費やすパワーは並大抵ではない。そのパワーが少しでも将来の血や肉になることを考えて受験指導をされていたというのには頭が下がるばかりである。
DTPエキスパート認証委員会副委員長だった私としては、そんな将来にも役に立つマインドを盛り込んだ試験にするべく問題作成等をしていた。大学受験問題は将来の伸び幅も予測した資質を試験するものだが、エキスパートは社会人として活躍する人のための実践的な資格試験である。
例えばお客様の要望を正確に聞く能力を試すのだったら(例えば電話応対していても要領を得ない電話には辟易のはず?)、長文試験が一番で、短時間で正確にズバッと本質に迫る能力は社会に出たら必須である。
そんな資格試験にしようと頑張っていたし、そんな歴史があって進化してきたDTPエキスパート認証試験なのである。
(JAGAT専務理事 郡司秀明)