実用化段階へと進んだPDF/X-4
JAGATは、7月3日、DTPエキスパート認証制度の課題提出方式としてPDF/X-4を採用することを発表した。その背景を解説する。
DTPエキスパート試験 実技課題にPDF/X-4を採用
DTPエキスパート認証試験は、印刷およびDTPに関する知識を問う択一式(マークシート方式)の学科試験と、約4週間の期限内に実際にDTPアプリケーションを使用して課題を作成する実技試験から構成されている。
今回の改訂は実技試験に関するもので、課題提出の形式にPDF/X-4を採用する。試験方式変更は、2017年8月27日に実施する第48期試験より適用される。
(第48期試験ではPDF/X-1aも可とするが、近い将来PDF/X-4のみに変更する予定)
PDF入稿の普及
PDF/Xとは、印刷用出力ファイルのISO標準規格である。代表的なものにPDF/X-1a、PDF/X-3、PDF/X-4がある。
10年ほど前までは、印刷入稿と言えばアプリケーションデータ、つまりAdobe IllusutratorやAdobe InDesign、QuarkXpressなどの保存データを入稿する方法が一般的であった。
それは、印刷入稿後に戻ってきたゲラや校正刷りを発注側でチェックし、印刷会社側でデータ修正するという作業フローが一般的だったからである。そのため、アプリケーション(ネイティブ)データ入稿が必要だったのである。
最終のチェックや修正は、信頼のおける印刷会社に頼らなければいけない、という考えが一般的だったのである。
しかし、このワークフローではデータ制作時の環境(OSやアプリケーションのバージョン、フォント環境など)が、印刷会社にも用意されていなければならないという制約がある。この当時は、アプリケーションのバージョンやフォント環境の違いに起因するトラブルも少なくなかった。
発注側で完全データを制作できるなら、このようなトラブルとは無縁である。PDF入稿なら、印刷会社の環境に依存せずに出力できる。こうしたことから、急速にPDFワークフローが普及していった。
PDF入稿に限定したネット印刷(印刷通販)という業態が普及したことも、この傾向を後押ししたと言えるだろう。
その際に主に採用されたのが、PDF/X-1aであった。PDF/X-1aは、印刷用出力ファイルの標準規格であり、その当時、普及していたPostScript RIPのほとんどで安定した出力が可能だった。
PDF/X-4採用の背景
しかし、PDF/X-1aとそれを出力するPostScript RIPは、「透明効果」に未対応という問題があった。
「透明効果(Transparency)」とは、2000年前後からAdobe IllustratorやAdobe InDesignに搭載された機能である。これを指定すれば、複数のオブジェクトを重ねた際、上のオブジェクトを透かして、下になっているオブジェクトが見える。
さらに、不透明度を指定すると薄く透けて見えるなど、デザイン効果の高い機能である。
文字や図形に影を付けるドロップシャドウやぼかし処理なども、この透明効果を活かしたものである。
PDF/X-1aとそれを出力するPostScript RIPは、この透明効果に対応していない。そのため、PDFに書き出す際に分割統合という前処理が必要だった。RIPに送る前に透明部分をラスタライズ(画像化)することで、出力可能としたのである。
ただし、この操作が複雑なため、トラブルの原因となることも多かった。
Adobeが透明効果に対応したのはPDFのバージョン1.4以上であり、PDF/X-4である。
PDF/X-4は、PDF/X-1aおよびPDF/X-3の後継であり、CMYKおよびRGBに対応。透明効果の保持が可能なため、分割統合は不要となり、よりシンプルで信頼性の高いワークフローが実現できる。
また、出力するRIPとして、APPE (Adobe PDF Print Engine)が必要である。
現在では、APPEがかなり普及したため、多くの印刷会社やネット印刷(印刷通販)がPDF/X-4入稿を受け入れるようになった。
実技課題作成上の注意
近年のAdobe InDesignやAdobe Illustrator、Adobe Acrobatなどのアプリケーションには、標準でPDF/X-4書き出しプリセットが装備されている。また、印刷会社や印刷関連メーカーが公開、推奨している「PDF保存設定ファイル」を利用しても良い。
さらに、Adobe InDesignやAdobe Illustratorの関連サイト、または印刷会社や印刷関連メーカーが公開しているサイトでも、PDF入稿の詳細が公開されているので、参考にすると良いだろう。
(CS部 千葉 弘幸)