DTPエキスパート四半世紀・・・資格制度事務局奮戦記(5)
「DTPエキスパートカリキュラム」は初版を公表してから24年が経過し、JAGAT50年の歴史の中で最も長期にわたって発行し続けている出版物と言える。前回に続いて2年ごとのカリキュラム改訂を取り上げて四半世紀を振り返えり、事務局奮戦記の最終回としたい。
前回の第4回DTPエキスパート事務局奮戦記では、受験人数が年間4500人を超えてピークとなった2002年発表の「カリキュラム」第5版までを振り返った。
カリキュラムを象徴として描かれるDTPエキスパートの人物像は、日本におけるDTPの導入期から普及、展開といったフェイズに応じて変化してきた。また、メディアの多様化、ビジネスの変化といった環境に応じてその役割が変化せざるをえなかったところもある。しかし、一貫しているのは“DTPに関する正しい知識と技術を保有し「高品質な製品としての印刷物(よい印刷物)」の提供を実現する、あるいは実現できる人”ということであった。
しかし、その実現のためには“DTPに関する正しい知識と技術”だけではダメで、新たな分野とスキルも求められる時代がやって来た。
◆カリキュラム第6版~第7版(2004~2006年)
2003年頃には、デジタルカメラをイメージキャプチャの中心に据え、RGB入稿、ICCプロファイルによる色変換、PDF/X、CTP、JAPAN COLORという流れで安定的に制作ができる体制が固まった。2004年発行の第6版では、この流れをグラフックアーツに関わる方々が理解し、その上で品質向上や新たな付加価値サービスを求めて努力することになるであろうことを想定し、これらの項目の変更、追加に主眼をおいた。
第7版を発行した2006年頃には創作物がインターネットなどで簡単に流布することが可能となり、著作権問題が以前より浮かび上がるようになってきた。企業のコンプライアンスもより強く叫ばれるようになり、知的財産権や個人情報保護法の項目が加えられた。これらを含めて品質維持の責任を持つ必要があることから、縦組みの組版、メタデータ、デジタルカメラのRAWデータ、品質管理、表面加工などの変更も加えられた。
◆カリキュラム第8版~第9版(2008~2010年)
DTPエキスパートカリキュラムでは、過去のものとなりつつある項目はなるべく削除してきたが、逆に古い知識であっても残すようにした項目もある。例えば当時で言えばフロッピーディスク等の知識は復刻版への対処を視野に入れて意識的に削除をしなかった。レタッチを例に挙げれば従来のCMYKならではの表現方法及び常識はRGB時代になっても重要であり、DTPエキスパートとして活かせるようにRGBレタッチを前提とした方向性で設問は残していた。メインストリームをきちんと指し示せることがDTPエキスパートの役割であるからだ。
2008年の第8版で特筆すべきは、基礎的なものではあるが「印刷見積(積算)」を新項目として追加したことである。背景には印刷・メディア産業の共通知識としてのDTPエキスパートカリキュラムを学ぶために、営業職の受験者が増加してきたこともある。
そして2010年に発表されたカリキュラム第9版では、初めて「電子書籍」の基本的知識や照明光源知識としての「LED」が取り上げられた。また、受発注にまたがる分散環境のコラボレーションが重要となり、ネットワーク環境を介しての素材データのやり取りなど自由度の高い作業が求められる中で、クリエイトから印刷まで一貫したワークフローを考慮して品質検査や検版を自動化、リモートで行うことがより重要性を増してくる。DTPエキスパートにはこのような品質管理に関しても新しいルールを創る責務があると考えた。
◆カリキュラム第10版以降(2012年~)
DTPの技術的な面では、新たなソフトウエアへの対応やアプリケーションのバージョン違いによるトラブルな対応などの要素は減ってきた。しかし、これからのDTPエキスパートは、「よい印刷物」だけでなく、印刷周辺のデジタル化を推進しつつ本来持っていたノウハウをデジタル時代に生かしきる役目と、一つのコンテンツを紙と電子書籍、Web、デジタルサイネージ等に生かしきる使命を持っている。
2014年の第11版からは、新たな項目として、また試験の新カテゴリーとして「コミュニケーション」が加わった。
情報を伝達するメディアは、紙のほか電子化されたものなど、多様化している。そうしたなかにおいては、コミュニケーションツール(手段)の選択肢も多様化したということであり、紙メディアに限らず各種メディアの特性も理解した上で選択と手法を最適化して制作物を設計していく必要がある。
コミュニケーションツールを効率的、効果的に作り上げていくに際して最も必要な能力は、対外的にも社内的にもコミュニケーション能力であり、DTPエキスパートとしてもそれが求められる時代になったということである。
そして、現時点で最新の2016年発表の第12版で最も大きく追加された項目は「マーケティング活動と印刷メディア」である。
今一度“よい印刷物”とは何か?を考えてみると、顧客が印刷物という手段を通じて伝えたい情報が的確に受け手に伝達ができ、結果として期待された効果、すなわち売り上げ増、来客増といった成果が得られてこそまさに“よいコミュニケーションツール”なのである。このような目的を達成する役割もDTPエキスパートにあると考えると、これからはマーケティングの知識も避けては通れないであろう。
以上見てきたように時代の変遷とともに少し先を見つつも現場から乖離すること無く、仕事で要求されるレベルを維持しており、この先のDTPエキスパートの役目と方向性をきちんと示すべく「DTPエキスパートカリキュラム」の改訂は続く。(了)
(CS部 橋本 和弥)