100年ライフと学び直し

掲載日:2018年4月10日
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『2007年生まれの人の約50%は100歳以上生きる』という人生100年時代(100年ライフ)。 現在若手職業人として活躍されている方々は、100年ライフとは言わないまでも、既存概念に基づいた職業観を見直さなければならない世代と言えるでしょう。

ライフステージの変化と職業観

昨年秋の発売から各所で話題となっているリンダ・グラットン著『ライフ・シフト』では、人生100年時代ではライフステージの捉え方が大きく変わることにより、人材のスキルや能力といった無形資産への投資の重要性が高まると述べられています。

従来、人生は大きく分けて3つのステージがあるという前提で捉えられてきました。

  • 大学卒業までの「教育」のステージ
  • 就職し定年するまでの「職業」のステージ
  • 現役社会を退いてからの「引退後」のステージ

という3ステージです。

本書では、100年ライフが想定される今後の社会構造では、各ステージが固定化せず、教育と職業の移行(あるいは余暇や自己探索の期間も含む)を段階に応じて組み替える「マルチステージ化」に向かう、と予測されています。 予測の根拠は、長期化する一生の中で、「現役」人として活躍し続けるには、誰もが各ステージが一様に区切られた「一斉行進」として人生を送るのではなく、自身の無形の資産である能力やスキルの再創造をする期間が時に応じて必要になる、という点です。

現在の印刷ビジネスでも、社会構造の変化に伴い、より付加価値の高いビジネスを実践するため、新たな課題を見出し対応するため幅広く知見を持つスキルの重要性が様々な場面で触れられています。 こうした構造の変化がさらに進むと、より学び直しの重要性が高まる結果、教育のステージを社会人になるまでと限定するのではなく、就業後も長期化する職業人生を見越して学び直しをする必要が出てくる、というわけです。

さらに、あらゆる立場の人が社会参加し続ける社会では、育児や介護の期間を越えての再就業が当たり前となり、このことも各ステージが一様に区切られた一斉行進ではなく、マルチステージ化に向かうという予測の根拠となっています。 育児・介護休業制度の運用が未定着の社会で職業人としてこうした課題に直面した方々にとっては、むしろマルチステージというのは未来社会の予測というより通過した現実と言えるかもしれませんが、今後は、立場に関わらず社会構造として人生の各段階において時に応じた学び直しが必要になる、という見通しです。

よりよく働くための養分を得る

リクリエーション(recreation)という言葉は、「仕事や勉強の疲れを癒し、元気を回復するために行う娯楽(三省堂『大辞林』より)」として用いられてきました。 100年ライフを想定した働き方改革や労働生産性の向上のため、活用を期待される固定化業務の自動化やAI・ロボットによる代替とは、実は人が「ルーティン作業」から解放され、主体的に取り組みたい業務に集中することにより、働くことが楽しむこと(=幸福感)につながることに他ならないという考え方があります。 『ライフ・シフト』では、recreationを「リ・クリエーション=自己の再創造」と言い換え、マルチステージ間の移行期は「自己の再創造」のための学びや探索の時となるであろうと予測しています。 余暇を過ごす時間を自己の再創造と関連させて捉えることは、「仕事や勉強の疲れを癒すこと」ではなく、「よりよく働くための養分を得ること」としてより自然に捉えられるようになるのかもしれません。

企業側が人材を資産と捉えて育成計画を立てていくことの重要性は言うまでもありませんが、企業側主導の育成に呼応する各自のキャリア設計意識は、今後さらに重要性を増すと思われます。

JAGAT CS部 丹羽 朋子