DTP制作者としての強みを見出すには
現在DTPエキスパート認証委員を務めていただいている(株)スイッチ creative room ANTENNNA 波多江潤子氏に、DTP 人材の今後の展望について、お話を伺った。
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波多江 潤子 氏
株式会社スイッチ creative room ANTENNNA
波多江さんはどのようなキャリアを積まれてきたかをお話しください。
波多江氏 印刷物制作との関わりは、音楽系の出版社で月刊誌の編集部に所属していたときから始まりました。社内でDTP 化を推進することとなり、その担当となりました。
その後独立して(株)スイッチ内にcreative room ANTENNNAを起ち上げ、現在は、DTP 制作業務を行っています。制作の他、DTP関連教材の執筆、コンサルティングや講師業も行っています。
講師としての立場では、DTP 制作業務には今後どのようなスキルが求められると感じますか?
波多江氏 企業の新入社員向けに、編集者が自らDTP 業務を行う研修の講師をすることがあります。編集業務、デザイン業務、DTP オペレーション業務の業務範囲を明確に理解したうえで、何を自分の強みにするか、プロフェッショナルとして力を入れていくのかということを考えてもらうようなお話をしています。
DTP アプリケーションの進化により、各業務の境界線が曖昧になってきている分、DTP アプリケーションのユーザーは増えているように思います。
ある程度器用な人なら、それなりのデータを制作することができ、ウェブから印刷発注まで自分で行うという形態も一般化してきています。
アマチュアとプロの差がどんどん狭まってきているので、その分プロでなければできない仕事という点で力を発揮していくには、テクニックや知識を深めておく必要があります。
例えば、今はほとんどのデザイナーが自分でデータ制作を行っていますし、逆にDTP オペレーターが見よう見まねである程度のデザインを行う場面も多いと思います。
その際に、明確な知識のベースがあれば、自信をもって取り組むことができると思います。
DTP オペレーターがデザイン業務に守備範囲を拡げる際のアドバイスをお願いします。
波多江氏 デザインと一言で言っても、ポスターをデザインするのと冊子ものをデザインするのとでは違います。
特に組版の要素が多いものについては、エディトリアルデザインの基本ルールや視覚的な理論などをよく知り、たくさんの優れた実物に触れる経験を持つことで、センスもおのずとアップしますし、自信を持って取り掛かれるようになると思います。
本職のデザイナーではない方は、そのあたりがあやふやなままデザインしている場面があるかもしれませんが、基本ルールをしっかり押さえてやっていくだけでも大きく違ってくると思います。
私は出版社の中でDTP 担当となってから、当時のデザイナーが手書きでデザインしてくるものをひたすらQuarkXPress を使ってデータに起こしていました。その時、デザイン上の不明点があるとその都度デザイナーに質問して、疑問点を解消しつつ業務に当たっていました。
そのことが随分勉強になり、現在のレイアウトデザインの業務に生かされていると感じます。
資格を通じた学習のメリットについてどうお考えですか?
波多江氏 資格という形をとることで、自身の学習成果を第三者へ示せる点が最大の利点と思います。DTP エキスパート取得者が自社の面接に来たら、この資格はどの程度の勉強をしなければならない資格かを知っている側にとっては、確実に一つの評価の指標となるでしょう。
DTP エキスパートについては、私も12 年前に受験したときは本当に勉強になりました。
講師をしていて、受講者からDTP についてさまざまな質問を受けるのですが、すべてに自信を持って答えられないときもありました。どんな質問にも確実に答えられるようになりたいと思ったのが受験の動機でした。合格することで自分がレベルアップしていることを実感できるので、自信にもつながると思います。
今後の展望として、メディアビジネス全般について注目しているテーマはありますか?
波多江氏 2 次利用を想定したデータ制作と管理です。制作を受注したとき、クライアントにはその点を必ずアドバイスしています。
2 次利用を踏まえたデータ管理を実施している企業には、制作時点でデジタルのアーカイブを作って登録しておき、利用者が検索できるようにしているところもあります。
これらは後からまとめてやろうとすると手間やお金がかなりかかってしまいます。以前編集者としてマルチメディアの雑誌を担当していたのですが、データの管理、取り扱いの重要性はその頃から強く感じていました。
こういったコンテンツは大きな資産になると思います。制作データのアーカイブを提案するなどの形でビジネスを広げていけば、クライアント、印刷会社とも互いにWin-Win の関係になれると思います。
印刷会社で受注した仕事をそのように管理しておくことで、仕事が離れなくなります。相見積によって価格競争になるような受注の仕方よりもよい展開になるでしょう。
紙媒体の需要が減少したとしても、各デバイスに展開する際の大きな強みともなります。
インタビューを終えて
編集、DTP制作、エディトリアルデザインと、既存業務に限定せず常に最善を目指して取り組まれる姿勢が、業務の拡がりにつながることを実践されてきたお話を伺えた。
DTP業務のコモディティ化など、プロフェッショナルとアマチュアの垣根が取り払われていく傾向の中、正しい知識の裏付けとともに業務に臨むことが自らの立ち位置を明確にする。
–JAGAT info 2018年6月号より転載–