デザイナーとしてのプロフェッショナルな仕事とは
DTPエキスパート認証委員/問題作成委員である大里浩二氏に、グラフィックデザイナーとして、また教員としての立場から、印刷物製作に携わる今後の人材についてお話を伺った。
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大里 浩二 氏
THINKSNEO代表/アートディレクター
帝塚山大学 准教授
現在の主要なお仕事についてお話しください。
大里氏 グラフィックデザインを専門とし、当初は広告関連の仕事を中心として活動してきました。
デザイン制作業務がDTP 環境へ移行するさなか、DTP 化のメリットを最も発揮するのはエディトリアルデザインであるということに着目し、エディトリアルにも対応するようになりました。当時はまだデザイン工程をDTP 化しているデザイナーが少なかったので、DTP 対応で行えることを強みにし、さまざまな領域に展開を拡げてきました。
デザインだけでなくプランニングからすべて引き受ける姿勢で幅を拡げているうちに、そういった仕事の依頼も来るようになり、現在では、広告をはじめセールスプロモーション、CI、エディトリアル、そしてウェブなど、さまざまな領域のデザイン業務を行っています。
2018 年からは、帝塚山大学現代生活学部居住空間デザイン学科(奈良県)の准教授に就任し、居住空間に関わるグラフィックすべてを対象とした内容を扱っています。
この学科は建築やインテリアが主体であり、グラフィックデザインの専任教員は自分一人なので、舵取りする立場で内容を組み立てているところです。実学教育を主体としている大学のため、教員の立場であるとともに実務のデザイン業務にも常に触れながら活動しています。
現在のデザイン制作に関わる人材の育成についてどのようにお考えですか?
大里氏 全般に、グラフィックデザイン業界はデジタル化の面で遅れていると感じています。データの作り方として、トンボを例にしても、いまだに仕上がりサイズ設定で自動生成するのではなく、大きめのドキュメント設定の中に仕上がりサイズの箱を描いてデータを作る人が多いですし、またデータ形式も旧式のepsファイルを多用する人も少なくありません。
デジタルツールにもう少し詳しくなれば工程が改善することに対し、柔軟でない人が多いのが実情です。デザインは素晴らしいのに、データ自体を見るとスタイル機能を利用せずに個々の要素を手修正して整えていたりするものもあります。
スタイル設定、正規表現といった方法を活用することでデザイン工程が改善するのに、そうでない人が多いのはとても残念なことです。
ただし、デザイナーの教育機関においてこういった指導ができていないという現況もあります。
指導者としても最新動向を更新し続けるため、勉強会に参加するなどして指導内容の向上を心がけています。
勉強会などの場に参加していると、危機感を抱いている方々がみなさん口々にいうのは、この業界の遅れているところを何とかしたいね、ということです。旧来のやり方で凝り固まってしまっている人たちに、デジタルツールを使いこなした良いデータ制作のtipsなどをアドバイスしても、次回にはまた同じような効率の悪い作りをしてくることが多いのです。
こういった世代を説得しながら全体レベルの向上を実現するのは難しいと感じています。
これからの若い世代の人たちに対しては、デジタルツール活用の重要さを理解してもらい、かつ今後も変わりゆく制作環境に応じてデジタルツールをうまく使いこなして吸収するよう指導していかなければならないと思っています。
職業としてデザイン業務を行う以上、プロフェッショナルとしてデータ制作のシステム的な対応についての知識は身に付けるべきと思います。
レイアウトやデザインの視覚表現に関するレベルの向上についてはどのようにお考えですか?
大里氏 そもそも印刷物に限らず、営業の方がPowerPointなどで作る企画書のレイアウトなどを見ても、海外に比べて日本人は全体の水準が低いと感じます。
教育指導要綱の改訂で、ようやく高校の情報科目の教育課程に情報デザインが入ってくることになり(注1)、そのこと自体は望ましいことだと思っています。
ただし適切な指導者がいるかどうかが大きな問題です。まずは指導者の質を高めてからでないと改善にならないので、情報デザインの重要さが社会に浸透するには、もう一世代かかるのではないかと予想しています。
こういった取り組みは、全体的な底上げが重要です。DTPエキスパートの実技試験では、デザイン職以外の方も制作に取り組んでいると思いますが、職種に関わらず少しずつでも取り組みを広げていくと、結果として全体の底上げにつながると思います。
メディアビジネス全般の中で注目しているテーマがあれば教えてください。
大里氏 デジタル印刷機が特色や特殊印刷効果にも対応するようになったことは、デザイン面での拡がりにつながり、大いに注目しています。
これまでは大ロットでなければ作れなかったようなものが、低価格小ロットでつくれるようになると、コスト面でのデザイン的な制約がなくなり、さまざまな提案がしやすくなります。
また、サンプル出しなどでもコストがかなり抑えられるので、提案で現物サンプルを見せられるなど、デザイン提案活動自体が大きく改善します。
デジタル印刷機で蛍光ピンクや白、クリアなどを使えるようになり、また表面加工も可能になりました。
用途として、パッケージなども含め作り物の幅が広がり、面白くなってきていると思います。
インタビューを終えて
DTP エキスパート認証試験では、印刷物製作における組版や情報デザインの体系的な学びという点で、レイアウトデザインのベースとなる基礎知識なども出題対象としてきた。
大里氏は上記の点に加え、視覚表現のプロであるデザイナーとして、デザインデータ一体についての質を高めることも重要だとお話しいただいた。
–JAGAT info 2018年8月号より転載–