DTPエキスパート認証試験 2本立てのねらい
JAGATは、2019年10月28日、DTPエキスパート認証制度を2段階制への改定を発表した。つまり、今後のエキスパート試験は、学科だけを受験するDTPエキスパートと、学科・実技の両方を受験するDTPエキスパート・マイスターの2本立てとなる。
従来のエキスパート制度の経緯
DTPエキスパート試験は、1994年の創設以来、DTP・印刷に関する知識を問う択一式の学科試験、および与えられた期間内に課題を提出する実技試験から構成されていた。
幅広い知識と制作実務の技能の両方を備えていることを認証していた。
DTPは、言うまでもなくデジタルデータとして印刷物を制作する技術であり、制作実務の重視は当然である。また、この試験の特徴として、制作部門を統率するリーダーの能力を問うために、制作指示書の作成を課している。プレーヤーとして実務を全うするだけでなく、チームリーダーとして他者に的確な指示を行い、業務を遂行する能力を求めている。
また、営業担当者や営業企画部門の受験も増えている。近年の傾向として、制作・製造部門に属する受験者が50〜60%、営業部門の方が30%前後である。
DTPエキスパートの有効性として、共通言語の理解を挙げる方も多い。
印刷業界では、営業部門と制作製造部門、デザイナーやクライアントとやり取りする際に、専門用語や業界特有の表現は欠かせない。
若手社員や経験年数が少ない方など、それらをあやふやに理解しているために、誤解や不測事態を生じることもある。共通言語を理解していれば、どんな部門や立場の人とも、正しいコミュニケーションを取ることができる。
実技試験のあり方を再構築
実は、以前より受験を推進する企業などから、実技無しの試験方式を望む声があった。つまり、実技試験の内容や技能を実務で必要とする人間は一部に限られている。実技課題に取り組むには、PCやDTPソフトウェア一式を用意し、習得のための研修費用も安価ではない。
DTPエキスパートの制度を検討する認証委員会でも、数年前から実技試験の意義やあり方について議論を重ねていた。
実技試験の有用性について異論は少なかった。実技に触れる機会が無い方こそ、エキスパート試験の受験をきっかけに実技に触れることができる。実技試験が貴重な機会を提供するという考え方である。
反対に、実技試験があるために受験を見送り、その結果、学習の機会を逃しているという考え方もあった。学科試験だけでもバランス良く知識を身に着けることができ、共通言語を理解することができる。
そうして行きついた結果が、今回のDTPエキスパートとDTPエキスパート・マイスターの2本立て試験である。
(新)DTPエキスパートは実技試験を必要としない方のものである。
DTPエキスパート・マイスターは、従来と同様に学科・実技の両方を受験する。2つの試験で実施される学科試験は、同時に実施され、内容も同一である。DTPエキスパートが難易度が低いという意味ではない。
したがって、初回はDTPエキスパートを受験して合格した方は、次回以降に実技試験(アップグレード試験)を受験し、マイスター取得を目指す2段階方式を選ぶこともできる。アップグレード試験の受験には期限はなく、半年後でも数年後でもチャレンジが可能である。
また、DTPエキスパート・マイスターを受験し、学科試験が基準に達していれば、実技試験が不合格でも(新)DTPエキスパートとして認証される。
DTPエキスパートの2本立ては、DTPエキスパートという機会を利用して、知識や技術を身に着けたいという人のための制度である。人によって、またバックアップする企業によって求めるものに違いがあり、その道筋をいくつかに分けている。使い分けて利用してもらえると幸いである。
(JAGAT 研究調査部 千葉弘幸)