変化が迫られる人材育成手段
人材育成手段が多様化している。
デジタル教材、オンライン研修などを検討される場面も多いことだろう。
ある種の教育には、印刷物教材を用いた手段が適しているとされる。デジタル時代の読書の進化を科学的に分析する欧州の研究者グループは、主に時間的制約がある中で長文の情報を読む場面では、デジタルツールへの習熟度や世代に関わらず、デジタルデバイスよりも印刷物を用いた場合に、より理解が深まることを論証した。(スタヴァンゲル宣言、2019年)。
他にも、情報のリテンション(保持、記憶痕跡が存続していること)を重視する場合など、印刷物教材の優位性が示されている例は多い。
一方で、アクセシビリティにおけるデジタルツールのアドバンテージは明白だ。
働き方関連法の施行に伴い働き方の多様化が促進される中、より柔軟な人材育成方法として、オンライン研修などの場所や時間の制約の少ない研修形態の重要性が高まりつつあった。
コロナウイルス感染対策としてその具現化が一気に加速しているのが現況だ。研修自体がオンラインである以上、告知や申し込み方法、受講案内も含めてデジタル対応したほうが受講導線はスムーズというわけで、ある種慣習に従い成り立っていたアナログ運用についても併せてデジタル化が進んでいる。
デジタル研修ツールの活用概況
国内外の人材育成ツール市場を見てみると、国内における企業研修市場は約5000億円、うちe-learningなどのデジタルツール利用は10%程度だ。検定資格試験市場を見ても、約2000億円ある市場のうち、CBT(コンピューターを用いた試験方式)などの活用はやはり10%程度に留まっているという。
これに対して国外の事情を見てみると、欧米では各種検定試験のうち約80%がCBT方式試験となっている。
和文と欧文におけるデジタルデバイス上の文字の可読性・視認性の違いも踏まえると、欧米市場と日本国内市場を比率で単純比較するのが妥当ともいえないが、これだけの差がある以上今後の動向に無頓着ではいられないだろう。
コロナ禍で気づかされた体質変革の必要性
デジタルツールのメリットに目を向ける機会に恵まれなかったという側面もある。コロナ感染対策の必要性によりオンラインツールを使いこなさざるを得ない状況に追い込まれ、半ば致し方なく活用してみて初めてその利点に意識が向いたという方も多いのではないだろうか。
こうした状況を迎えた以上ピンチをチャンスに変えるつもりで、どのように活用すれば従来方式以上のリターン=研修成果が得られるのかという姿勢で臨むのが得策だ。
そもそもこの変化の多い時代に、既存概念にとわれたままで生き残っていけるのかは誰にもわからない。先人の歩んだ道をトレースすることで未来は描けないからだ。
大切なのは、既存手段に根拠なく拘泥することでも、デジタルツールに振り回され目的を見失うことでもなく、冷静に全体像を捉えて正確な事実認識のもと、本来の目的に適した手段を主体的に選択できるだけの知識と行動力であることを、この大きな情勢の変化の中で強く感じる。