今回はIT系のニュースなどで目にすることが増えた「デジタルトランスフォーメーション」と「2025年の崖」について紹介します。
仕事をしている人で「デジタル化」ということばを見たことも聞いたこともない、という人はいないでしょう。新聞やテレビ、インターネット上のコンテンツなどで日常的に使われていますし、社内で「うちもデジタルを活用しないと」という議論をしていることも耳にします。そんな、当たり前に登場する「デジタル化」ですが、人によって違う使い方をしているようです。
デジタル化とは?
デジタル化と聞いてすぐに思いつくのは「アナログデータをデジタルデータに変換すること」です。音声などのアナログ信号をデジタル信号に変調することや、FAXで送っていた注文書をメールで受信するといったこともデジタル化と呼んだりします。扱うデータ自体はデジタル形式に変わっていますが、人が行うプロセスは基本的に変わりません。
もうひとつのデジタル化は「ビジネスをデジタルデータに基づいて変革し、新しい価値を生み出すこと」です。ドローンが撮影した画像から作物の病気を発見したり、スマホアプリが収集した位置情報を分析して店舗がマーケティング施策を行ったり、センサーから取得したデータから傾向を見つけることはこちらの意味合いです。
今まで人手で行っていたプロセスを効率化したり、顧客の喜ぶ体験を提供したり、大量のデータから新しい価値を見つけて新しいサービスを生み出したりするデジタル化のことを、デジタル変革、デジタルトランスフォーメーションと呼んでいます。
デジタルトランスフォーメーションとは
デジタルトランスフォーメーションとは、テクノロジーのちからによって、ビジネスのしくみや経営を再構築することを指します。長いので「DX(Digital Transformation の略)」と使われることも多いです。
代表例はライドシェアサービスのUBER(ウーバー)。UBER自身は車も運転手も所有していませんが、車を運転するドライバーと移動手段を求めるユーザーをアプリで繋ぎ、その対価として手数料を得るというビジネスモデルです。従来のタクシーとは異なる利便性を提供することで利用者を増やしています。
UBERは単純にタクシーを呼ぶしくみをデジタル化したわけではなく、IT技術で新しいビジネスのしくみを生み出しました。このように新しい技術(特にクラウド、ソーシャル、ビッグデータ、モバイル)をフル活用して、新しいビジネスモデルや革新的なサービスを創出して競争力を獲得することをデジタルトランスフォーメーションと呼んでいます。
気を付けたい「2025年の崖」
企業の成長・発展のためにはデジタルトランスフォーメーションを実現するすることが重要だと言われていて、国でも積極的に推進しようとしています。そんななかで目にする機会が増えたのが「2025年の崖(がけ)」という言葉です。
これは経済産業省が2018年9月に公開した報告書で提示した「企業(経営者)がデジタル化を放置した場合、2025年に経済的損失が生じる可能性がある」というシナリオのことです。
ざっくり言うと、
- デジタルトランスフォーメーションを実現するためには業務の見直しや新しい技術を取り入れることが必要
- 業務見直しや新技術導入を進めても、社内で使っているシステムが古いままだと効果がいまひとつ
- しかも古い基幹システム(レガシーシステム)を使い続けると、維持費用が高くなったり、そもそも古いシステム・言語に対応できるエンジニアが不足してくる
- 問題を放置しているとデジタルトランスフォーメーションが実現しないだけでなく2025年以降最大12兆円/年の経済損失が生じる可能性がある
ということです。
1年で12兆円というのは、古いシステムが原因で障害が発生した場合に起きる損失を4兆円と見積って、2025年には今より故障リスクが3倍になると推定して算出した金額 (4兆円×3=12兆円) です。
OS・ソフトウェアのサポート終了、5G、人材不足による省人化の加速、AIをはじめとする技術進化など、いろいろな環境が変わってきています。デジタルトランスフォーメーションというとハードルが高いですが、近いうちにAIやIoTを導入予定、または検討中という企業や自社のデータ資産を活用したいという企業も少なくないでしょう。新しい技術を取り入れるのと現在のシステムを見直すのはどちらが欠けてもうまくいかないものです。
(JAGAT 研究調査部 中狹亜矢)