アマゾンのクラウドAIを活用して、「自分の子供の写真を画像認識で見つけてお勧めする」機能を実現した事例を紹介。
印刷総合研究会ではAIをビジネスで利用している企業に話を聞く研究会を12月に開催した。そのなかで、Amazonのクラウドサービスを活用している写真販売サービス「はいチーズ!」について、開発元の千の熊谷大地氏に話を伺ったので紹介したい。
「写真を探す時間を短縮したい」というニーズ
千が運営する「はいチーズ!」は、幼稚園や保育園などで開催される運動会、卒園式といったイベントのほか日常生活の場面を、プロのカメラマンが撮影して、その写真を家族がオンライン上から閲覧・購入できる写真販売プラットフォームだ。全国で約5000団体が利用している。
幼稚園などでは、先生が園児全員の写真を撮影し、現像したスナップ写真に附番して壁に掲示する。保護者は、壁にずらりと掲示してある何百枚もの写真を見て、自分の子供が写っている写真の番号を申込書に記載する。園側は、申し込み枚数分だけ焼き増しした写真を申込みごとに仕分けして受け取っていた。
イベントは1年に数回あるため、その都度先生が撮影して販売するのは大きな負担になっていた。
「はいチーズ!」では、撮影はプロのカメラマン、販売はオンライン上で決済までできるため、園側にとっては撮影、現像、掲示、代金回収の手間が削減できる。また利用する保護者側にとっても、わざわざ園に赴いて写真をチェックしなくても、いつでも、どこでも写真を購入できるようになるというメリットが生まれた。
プロのカメラマンが園児ひとりひとりが写った写真を大量に撮影するため膨大な量の写真データができる。大規模な園では園児が200名を超えることもあり、そうなるとイベントごとに1万枚を超える写真になってしまい、保護者が自分の子供の写真を探すのに時間がかかってしまうという課題があった。
AmazonクラウドAIを活用し、自社サイトでのユーザー体験を向上
そこで「はいチーズ!」では、コスト的にも安く、いちから開発しなくても利用できるAWSの画像分析サービス Amazon Rekognition を採用し、保護者が自分の子供の写真をアップロードすることで同じ顔の写真を見つけ出す顔検索機能をテスト開発した。
Amazon Rekognition とは、Amazonがクラウド上で提供しているAIサービスである。画像分析と動画分析を行うことができ、対象物体の特定や顔認識のほか、画像中のテキストを認識することもできる。料金は安価で、たとえば画像分析であれば1000枚あたり1ドル程度で利用することができる。
「はいチーズ!」では、もともとAWSを利用していたため既存サービスとの親和性も高く、導入を決定してからわずか1ヶ月程度で顔検索機能をリリースできた。
しかしベータ版として公開したものの使用率はなかなか上がらなかった。子供の画像をアップロードすることに抵抗感があるのではないかと考察し、次に画像をアップロードしなくても機能が使えるように変更した。
具体的には、ユーザーの注文履歴を分析することでそのユーザーが購入したい子供の顔を特定する。その顔を使って写真検索した結果を「おすすめ写真」として掲出するものだ。これによりユーザーは画像をアップロードしなくても自分の子供の顔が写った写真を簡単に見つけることができるようになった。この機能をリリース後、ユーザーの使用率が向上し、写真の購入率も向上した。
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「はいチーズ!」の取り組みは、ユーザー側のニーズに対してAIの顔認識機能をうまく活用した事例である。クラウドサービスを利用することで、コストを抑えつつスピード感のある開発ができる。AI活用を考えるときには、このようなクラウドサービスも選択肢になるだろう。
(JAGAT 研究調査部 中狭亜矢)
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