電子書籍時代の編集者に求められるものは何なのか。クロスメディアの観点から考察する。
「電子書籍時代における編集者のあるべき姿」というテーマで、日本編集制作会社協会から講演依頼があった。これからの編集者に求められるものは何なのか、クロスメディア、ソーシャル、フリー、シェアという観点から講演を行った。
またインディーズ作家を応援するマガジン『月刊群雛』8月号にゲスト寄稿した。原稿を執筆してから原稿の確認作業をオンライン上で行い、刊行形態は電子書籍版とPOD版による紙の書籍。クロスメディアという観点から考察してみる。
『月刊群雛』8月号にゲスト寄稿
この連載で「胎動するインディーズムーブメント『群雛』」というタイトルで取り上げたことのある『月刊群雛』8月号にゲスト寄稿した。
2014年1月28日に創刊され、その新規性、出版の世界にとどまらないインディーズムーブメントの象徴的な雑誌である。数日後にまずタイトルを「『月刊群雛』への応援歌」に決め、原稿を執筆した。原稿の確認、校正の作業はGoogleドキュメントというオンライン上のサービスを使用した。このサービスを選んだ理由を、鷹野編集長は次のように説明している。
日本独立作家同盟への参加条件が「Google+のコミュニティで挨拶をすること」なので、必ず全員がGmailアドレスとともに、Googleドライブを利用できる環境になっているからです。また、WindowsでもMacでもAndroidでもiOSでも、とくにプラットフォームを問わず利用できるところも大きなメリットです。スマートフォンがあれば、外出先からでも確認可能です。他にもメリットとして、クラウドサービスで他者(群雛の場合「編集者」です)と共有できること、編集権限を限定できること、複数名が1つの原稿を同時に閲覧・編集できること、変更履歴が全て自動で残ること、ドキュメント編集はそれなりに機能が充実していることなどが挙げられます。
(「Googleドライブ」で行う「月刊群雛 (GunSu)」の原稿確認工程について)
原稿を執筆した私と鷹野氏に加え、編集のお手伝いをしている竹元かつみ氏、作家でもある晴海まどか氏の4人でリアルタイムに原稿を確認しながら修正していく作業は実に新鮮な体験だった。
発売日になり、ツイッターなどで私の執筆した原稿にも感想が寄せられた。とくに月刊群雛にもたびたび寄稿している作家の米田淳一さんが「群雛関係だけでなく、インディーズ活動してる人は読んで、辛い時、シンドい時に何度も読み返すといいと思う。とても熱くて、勇気をくれる」という感想を書いていただいたのにはいたく感激。
電子書籍は、ストア(電子書店)によって発売される日付に多少の違いがあるものの、BCCKS、アマゾンのKindleストア、楽天Kobo、紀伊国屋書店Kinoppy、凸版印刷BookLive!、ソニー Reader Store、KDDIブックパス、アップルiBooks Storeとほぼ主要なストアから販売が出揃った。
そして、自分でも執筆したという実感を強くしたのはBCCKSからPOD版が届いて手にした瞬間だった。御盆休みに妻の実家に帰郷した際、目の前で義母や義妹が丁寧に読んでくれた。電子書籍版だけであったら、スマホ、タブレット、ましては電子書籍専用端末などを持っていない層にはリーチできないだろう。このように執筆から販売までを実体験することで、改めてメディアの特性というものを感じることができた。
一般社団法人日本編集制作会社協会が主催している「基礎から学ぶ編集教室」の夏期特別セミナーとして「電子書籍時代における編集者のあるべき姿」というテーマで講演を行った。この講座は大日本印刷との共催で「DNP大日本印刷 市谷の学校」とネーミングされている。
講演では、クロスメディア、ソーシャル、フリー、シェアといった概念を中心に、コンテンツの生成方法、流通・販売の方法、そしてソーシャルメディアを使ったプロモーションの方法などを海外の最先端事例などで紹介。
参加いただいた方は、編集制作会社の方、出版社に勤務している方、フリーランスで編集の仕事をしている方などさまざまだった。多くの感想をいただいたが、中でも「ツールはある。あとはそれを自分が体験し、何をつかむかが大事」という私の主張を、説話社の高木利幸さんが「編集=出版=アナログという安易な見方ではなく、編集=作品/コンンテンツ制作=Tool dosen’t matter.(道具は問わない)という発想力と行動力、主体性が求められるのだろうと感じました」と受け止めていただいたのは、まさに「我が意を得たり」という心境だった。
クロスメディアでイタリア語修業
7月1日付で人事異動があり、急遽イタリア語を習得することになった。学生時代には文化人類学という異文化研究をメインとする学問を専攻していたので、語学習得には抵抗感はないつもりだ。
むしろ、望むところというスタンスで前向きにアクションを起こし始めている。そして現在のようなメディアの状況下でどのような語学修業ができるのかを楽しんでみようと決意した。
iPad mini、iPhoneを愛用しているので、iOS版の物書堂の『伊和・和伊中辞典』を購入。これは小学館の辞書を物書堂がアプリ化したもので、単語を音声で確認できるし、瞬時に動詞活用にアクセス可能なので、たいへん重宝している。
物書堂は、『大辞林』(三省堂)のアプリでグッドデザイン賞や電子出版アワード大賞も受賞している。選択した単語に次から次へとリンクしていく機能などはデジタルならではの辞書といえる。
また「イタリア語 SPEAKIT」「L-Lingo イタリア語を学ぼう」「イタリア語三昧」といったアプリも購入して、通勤時間などにできるだけイタリア語に慣れるように努めている。
YouTubeで「イタリア語」と検索してみたら、多くの教材になりそうな動画が見つかったので自分専用に編集した再生リストを作成。
そしていくら便利なアプリやコンテンツが溢れているとはいえ、手書きによるアナログのノート作りも行っている。
学生時代から、また社会人になってからも資格試験、空手の技術の備忘録としても愛用してきたカード式のB6判ノート、別名京大式ノートを再開。エバーノートなどのクラウドサービスを使うことが多くなってきたが、しっかりと記憶に定着させるにはやっぱり手書きがいいと実感。こうしてクロスメディアを活用してどのように自分のイタリア語修業が進展するのかは次回以降にレポートする。
大日本印刷株式会社 ABセンター
池田 敬二
1994年東京都立大学人文学部卒業後、大日本印刷に入社。入社以来、出版印刷の営業、企画部門を歴任。趣味は弾き語り(Gibson J-45)と空手。JAGAT認証クロスメディアエキスパート、DTPエキスパート。日本電子出版協会クロスメディア研究委員会委員長。JPM認証プロモーショナルマーケター。
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